【SaaS連携の具体例】API連携で実現する部門間のデータ統合とワークフロー自動化

  • URLをコピーしました!
INDEX

導入:業務のボトルネックを解消する「SaaS連携」の価値

現代の企業活動において、CRM、SFA、会計、人事、勤怠といった業務の各側面は、SaaS(Software as a Service)によって支えられています。それぞれのSaaSは特定の業務領域で高い専門性と効率性を提供しますが、多くの企業が抱える共通の課題が、これらのSaaSが「個別最適」に留まっていることです。

具体的には、ある部門で入力されたデータが、他の部門のシステムに自動で連携されず、従業員が手動でデータを転記したり、CSVファイルをエクスポート・インポートしたりする手間が発生しています。これが、データ入力のヒューマンエラーや、業務停滞のボトルネックを生み出す原因、すなわち「データのサイロ化」です。

この課題を根本から解決し、企業の業務効率を飛躍的に向上させるのが、SaaS連携です。SaaS連携は、異なるSaaS同士を技術的につなぎ合わせ、部門間のデータ統合ワークフローの自動化を実現します。

本コラムでは、DX推進担当者様や情報システム、業務改善のご担当者様に向けて、SaaS連携の鍵となるAPI連携の基礎から、CRMと会計、勤怠と人事など、具体的な部門横断型のワークフロー自動化事例を徹底的に解説します。データ連携を通じて、企業の生産性を高め、「自動化された組織」を実現するための具体的な指針としてご活用ください。

部門間でデータが分断される「データのサイロ化」の課題

データのサイロ化とは、個々の業務システムが独立し、部門間でデータが隔離されてしまう状態を指します。この状態がもたらす具体的な課題は以下の通りです。

1.二重入力と作業負荷: 顧客情報や従業員情報など、同じデータを複数のシステムに手動で入力する必要があり、無駄な作業時間従業員の作業負荷を増大させます。

2.ヒューマンエラーの発生: 手動での転記作業は、入力ミスやフォーマット変換ミスなど、ヒューマンエラーを避けることができず、データの信頼性を低下させます。

3.意思決定の遅延: 各部門のデータがリアルタイムで統合されていないため、経営層が最新かつ正確なデータに基づいて意思決定を行うことができず、ビジネスチャンスの逸失に繋がります。

SaaS連携がもたらす業務効率化とDX推進への貢献

SaaS連携は、これらの課題を一掃し、企業のデジタルトランスフォーメーション(DX)を加速させます。

●ワークフローの自動化:
定型的なデータ転記や承認プロセスを自動化することで、手作業をゼロにし、従業員をより付加価値の高い業務に集中させます。

リアルタイムなデータ統合:
複数のシステムのデータを統合・同期させることで、部門横断的な単一の事実(Single Source of Truth)を確立し、データの信頼性を向上させます。

ビジネスプロセスの再構築:
従来の「手作業」を前提とした業務プロセスから脱却し、データ連携を前提とした新しい、効率的なワークフローへと企業全体を変革します。

本記事を読むことで得られるメリットと対象読者

項目詳細
対象読者DX推進・業務改善担当者、情報システム部門、部門マネージャー(営業、人事、経理)。
得られるメリット1. SaaS連携の鍵となるAPI連携の技術的な役割を明確に理解できます。

2. CRMと会計勤怠と人事など、部門横断で役立つ具体的な連携事例を把握できます。

3. 手動作業の排除データ統合による具体的な効率化効果を試算できるようになります。

4. iPaaSなど、連携を実現するためのツールの選び方と注意すべきセキュリティ要件を習得できます。

ワークフロー自動化の鍵となる「API連携」の基礎知識

SaaS連携を語る上で不可欠な概念が、API(Application Programming Interface)連携です。APIは、異なるソフトウェア同士が安全かつ標準化された方法でデータのやり取りをするための「窓口」のような役割を果たします。

API連携とは?異なるSaaS間でのデータ受け渡しを実現する仕組み

API連携とは、あるSaaS(例:CRM)が公開しているAPIを通じて、別のSaaS(例:会計システム)がデータの取得や更新をリクエストする仕組みです。

データの取得と送信:
APIが「この顧客の最新の売上データを提供してください」「この従業員を新しく登録してください」といった命令(リクエスト)を受け付け、実行結果(レスポンス)を返します。

標準化されたインターフェース:
現代のSaaS連携の多くは、REST APIと呼ばれる標準的な形式が用いられており、異なるベンダーのシステム同士でも、共通のルールでデータのやり取りが可能です。

リアルタイム同期:
API連携は、設定によってリアルタイムでのデータ同期を実現できます。これにより、データの鮮度が保たれ、常に最新の正確な情報に基づいた業務が可能になります。

SaaS連携の代表的な形態:iPaaSとカスタム開発の違い

SaaS連携を実現する方法は、主に以下の2つに大別されます。

1.iPaaS(Integration Platform as a Service)の利用:
概要: 複数のSaaS間の連携設定やデータ変換を、プログラミング不要のGUI(グラフィカルユーザーインターフェース)で行えるクラウドサービス。代表例として、Zapier, IFTTT, 国内iPaaSなどがあります。
メリット: 迅速かつ柔軟な連携が可能で、情報システム部門の専門的な開発リソースを必要としません
デメリット: 複雑なロジックや、大量データの同期には不向きな場合があります。

2.カスタム開発(自社開発):
概要: 企業の開発部門や外部ベンダーが、SaaSが公開するAPIを用いて個別に連携プログラムを構築する方法。
メリット: 極めて複雑で高度な連携ロジックや、大容量のデータ同期を実現できます。
デメリット: 初期開発コストリードタイムが長く、連携先のSaaSがアップデートされるたびに保守工数が発生します。

多くの企業にとって、まずはiPaaSを活用したローコード/ノーコードでの連携から着手し、高度な要件のみカスタム開発を検討するアプローチが最も効率的です。

連携の成功に不可欠なデータセキュリティと整合性の確保

API連携を行う上で、データのセキュリティと整合性は最優先事項です。

●セキュリティ:
API連携には、必ず認証(OAuth 2.0など)を用いて、連携元と連携先が正規のシステムであることを確認し、通信経路をSSL/TLSで暗号化することが必須です。連携用のアカウントに、必要最低限の権限のみを付与する最小権限の原則も徹底すべきです。

データ整合性(マッピング):
異なるシステム間で、「どの項目のデータを、どの項目のデータに対応させるか(マッピング)」を正確に定義しなければなりません。例えば、CRMの「顧客ID」と会計システムの「取引先コード」が一致していないと、データ統合が破綻します。


【具体的な連携事例】部門横断型のワークフロー自動化

SaaS連携は、特定の部門の業務効率化だけでなく、複数の部門を横断する企業の基幹ワークフローを劇的に自動化します。

【営業と会計の連携】CRM/SFA $\to$ 会計SaaS:受注データの自動計上

企業の収益に直結する受注から売上計上までのプロセスは、データ連携によって大きな効果を生みます。

課題:
営業部門がCRM/SFAで「受注」を入力した後、経理部門がその情報を確認し、会計システムに手動で売上や請求データを入力していました。これは、月末月初に経理部門の負荷が集中し、計上ミス売上確定の遅延を招いていました。

連携による自動化:
・CRM/SFAで案件ステータスが「受注」に変更されたことをトリガーとします。
・iPaaSが、顧客名、契約金額、計上日などのデータをCRMから自動で取得します。
・取得したデータを、会計SaaSの売上伝票入力APIを通じて自動で計上します。

効果:
経理部門のデータ転記作業が完全にゼロになり、売上確定までの時間が短縮され、リアルタイムな経営状況の把握が可能になります。

【人事と勤怠の連携】HR $\to$ 勤怠管理SaaS:入社・異動情報の自動反映

人事情報システムと勤怠管理システムの連携は、労務管理の正確性コンプライアンスに不可欠です。

課題:
新入社員の入社時や、従業員の部署異動時に、人事部門が人事SaaSに情報を入力した後、情報システム部門が勤怠管理システムにも同様の情報を入力する必要がありました。この二重入力や反映漏れが、勤怠の集計ミスセキュリティポリシーの適用遅延(例:新しい部署のアクセス権付与の遅れ)に繋がっていました。

連携による自動化:
・人事SaaSで「入社」または「異動」の処理が完了したことをトリガーとします。
・iPaaSが、従業員ID、氏名、所属部署、雇用形態などのデータを自動で取得します。
・取得したデータを、勤怠管理SaaSの従業員情報登録APIを通じて自動で登録・更新します。

●効果:
人事・労務担当者の手作業がゼロになり、入社・異動情報がリアルタイムで反映されるため、勤怠管理の正確性が担保され、コンプライアンス違反のリスクが低減します。

【サポートとマーケティングの連携】CS $\to$ MA:顧客の声と属性データの統合

顧客サポート部門とマーケティング部門の連携は、顧客体験(CX)の向上に貢献します。

課題:
カスタマーサポート(CS)部門がCSツール(例:Zendesk)で顧客の問い合わせ内容や満足度を管理していても、マーケティング部門のMA(マーケティングオートメーション)ツールにはそのデータが反映されず、顧客の真のニーズに基づいたパーソナライズされたマーケティングが困難でした。

連携による自動化:
1.CSツールで「重要度の高い問い合わせ」や「解約の可能性が高い顧客からの問い合わせ」がクローズされたことをトリガーとします。
2.iPaaSが、問い合わせ内容の要約顧客の対応履歴をMAツールに連携します。
3.MAツール側で、この履歴に基づき「ハイリスク顧客」セグメントに自動で追加し、適切なフォローアップメールを自動で送信します。

効果:
サポート情報が即座にマーケティング施策に反映されるため、顧客ロイヤルティの向上チャーン(解約)防止に直接的に貢献します。


連携による業務効率化効果:データ統合と手作業の排除

SaaS連携は、具体的な作業時間の削減だけでなく、ビジネス全体のスピードアップという定性的な効果ももたらします。

手動データ入力作業の排除とヒューマンエラーの削減

前述の通り、SaaS連携の最も明確な効果は、手動入力作業の排除です。

●作業時間の削減:
営業から経理への受注情報転記、人事から勤怠への従業員情報登録など、定型的なデータ転記作業に費やされていた人件費と時間コストを完全に排除できます。例えば、月間100件の受注を転記するのに1件あたり5分かかっていた場合、毎月約8時間の作業工数が削減されます。

エラー率の低下:
人間による作業では避けられない入力ミスやデータ形式の不一致といったヒューマンエラーが、APIによる正確なデータ受け渡しに置き換わるため、データの品質(正確性)が飛躍的に向上します。

リアルタイムなデータ統合による経営判断と意思決定の高速化

データのサイロ化が解消され、部門間のデータがリアルタイムで統合されることで、経営層やマネージャーの意思決定のスピードが向上します。

●即時的な財務状況把握:
受注情報がリアルタイムで会計システムに連携されることで、月の途中でも正確な売上予測キャッシュフローの状況を把握できます。

ボトルネックの可視化:
ワークフローの各プロセスが自動化されることで、どのプロセスに時間がかかっているかがデータとして正確に可視化され、業務改善のボトルネック特定が容易になります。

迅速な顧客対応:
サポート履歴がCRMに即座に連携されることで、営業担当者が顧客に接触する際、最新のトラブル状況を把握した上での対応が可能となり、顧客体験(CX)が向上します。

連携によって得られるコスト削減(人件費、時間コスト)の試算

SaaS連携によるコスト削減効果は、人件費とiPaaS利用料の比較によって明確になります。手動でのデータ転記作業に費やしていた時間と人件費を試算し、そこからiPaaSの月額利用料を差し引くことで、年間数百万単位の費用対効果が生まれるケースが多数報告されています。特に、データ連携の量や複雑性が増すほど、人件費削減効果が利用料を上回り、費用対効果が大きくなる傾向があります。手動作業の時間が多ければ多いほど、SaaS連携は財務的に有利な戦略となります。


SaaS連携を実現するためのツールの選び方と注意点

SaaS連携のメリットを最大限に享受し、失敗を避けるためには、適切なツールの選定と、入念な連携設計が不可欠です。

連携プラットフォーム(iPaaS)選定の基準と主要ツール比較

連携のハブとなるiPaaSを選定する際は、以下の基準を考慮すべきです。

1.接続可能SaaSの豊富さ:
自社が利用している、あるいは将来利用する可能性のあるSaaSとのコネクタが豊富に用意されているかを確認します。特に、国内のSaaSとの連携実績は重要です。

2.データ変換・加工能力:
連携元と連携先でデータの形式が異なる場合、iPaaS側で複雑なデータ変換や加工(ロジック)を、プログラミングレスで設定できるかを確認します。

3.セキュリティと認証:
OAuth 2.0API Keyといった安全な認証方式に対応しているか、通信経路が暗号化されているか、ログ管理機能が充実しているかを確認します。

4.スケーラビリティ:
連携するデータ量が増加した場合でも、安定して大量の処理を実行できる処理能力と拡張性があるかを確認します。

連携設計の重要性:失敗しないための要件定義とテスト計画

SaaS連携の失敗の多くは、設計の不備に起因します。

連携範囲の明確化:
「何を」「いつ」「どこからどこへ」連携するのか、連携のトリガー(起点)とアクション(終点)を明確に定義し、連携しないデータも明確に切り分けます。

エラーハンドリングの定義:
連携エラーが発生した場合に、「誰に、どのように通知し、どうリカバリ(復旧)するのか」というエラーハンドリングのプロセスを事前に設計しておく必要があります。例えば、連携が失敗した場合に、自動で再試行するロジックを組み込むなどが該当します。

テスト計画:
本番環境に移行する前に、テスト環境で少量のデータを用いて、データ整合性、ロジックの正確性、エラー発生時の挙動などを徹底的に検証する必要があります。

セキュリティ統合:SSOやアクセス権限を考慮した連携設計

SaaS連携は、システム間に新たなアクセス経路を開くため、セキュリティ設計が特に重要です。

●最小権限の原則:
連携用アカウントには、データ取得・更新に必要な最小限の権限のみを付与します。例えば、会計SaaSへの連携が「売上伝票の作成」のみであれば、「マスターデータの閲覧権限」などは付与すべきではありません。

●ID・アクセス管理(IAM)との統合:
ID管理システム(IDaaS)と連携し、従業員の入退社や異動に応じて、連携用アカウントの権限を自動的かつ迅速に削除・変更できる仕組みを構築することで、セキュリティガバナンスを強化できます。

データ暗号化:
連携処理の過程で、機密データ(個人情報、財務情報)が平文で扱われないよう暗号化されたチャネルでのみ通信が行われることを徹底します。


まとめ:連携で実現する「自動化された組織」

本コラムでは、SaaS連携の鍵となるAPI連携を活用することで、企業が抱えるデータのサイロ化手動作業のボトルネックを解消し、部門横断的なワークフロー自動化を実現する方法を詳細に解説しました。

CRMと会計の連携による売上計上の自動化や、人事と勤怠の連携による労務管理の正確性向上など、具体的な事例を通じて、SaaS連携が企業の生産性とデータ品質をいかに向上させるかが明確になりました。

これまでの議論の総括と、SaaS連携がもたらす組織の変革

SaaS連携は、組織に以下の変革をもたらします。

1.作業の自動化:
手動データ転記作業を排除し、ヒューマンエラーのリスクをゼロに近づけます。

2.データの信頼性向上:
リアルタイムなデータ同期により、部門間で単一の事実に基づいた業務が可能になります。

3.戦略的業務への集中:
従業員が定型的な作業から解放され、顧客対応や企画立案といった付加価値の高い業務に集中できるようになります。

編集部のコメント

DX推進担当者の皆様へ。SaaSの導入は、あくまで「点」に過ぎません。そのSaaSをAPI連携という「線」でつなぎ合わせ、業務プロセスを「面」として自動化することが、真のDXです。iPaaSのような連携プラットフォームの進化により、専門的なプログラミング知識がなくても、ビジネス部門主導で連携を実現できる時代が来ています。

「つなぐ」という小さな一歩が、年間数百時間もの作業工数削減とリアルタイム経営という大きなビジネス価値を生み出します。まずは、最も負荷の高い部門間のデータ転記作業から着手し、貴社の「自動化された組織」の実現に向けて、SaaS連携を強力に推進されることを推奨いたします。

logo

編集チーム

BtoB企業のマーケティング&セールス支援を担当しているBBマーケティングが運営しています。
コラムや用語集は生成AIを活用しながら編集チームによる監修の上で掲載をしています。
法人の通信・ネットワークサービスのマーケティング支援で学んだ事や活用できる情報を掲載していきます。
この業界・サービスに関わる業務に携わる皆様のお役に立ると幸いです。

INDEX