クラウド時代に求められるネットワーク要件とは

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クラウドシフトで変わるネットワークの役割

企業のIT環境は、この数年で大きな転換期を迎えています。従来はオンプレミス型のシステムが主流であり、社内ネットワークは主に「閉じられたLAN環境」として設計されてきました。しかし、SaaS型のビジネスアプリケーションやクラウドサービスの普及により、業務で利用するデータやアプリケーションの多くがインターネット上に存在するようになりました。

この変化は、単なる「システムの置き場所の移動」ではありません。社内ネットワークがインターネットへの「出口」として機能する頻度が飛躍的に高まり、ネットワーク設計の前提そのものが変わりつつあります。DX推進を担う企業IT担当者にとって、クラウド時代に適応したネットワーク要件を理解することは、もはや避けて通れない課題となっています。

従来の企業ネットワークは、「社内LANは高速で安全、インターネットは低速で危険」という前提のもとに構築されてきました。しかし現在では、業務の中心がクラウド上のサービスに移行したことで、インターネット接続こそが業務継続の生命線となっています。このパラダイムシフトを理解し、適切なネットワーク要件を定義することが、今後の企業競争力を左右すると言っても過言ではありません。

クラウド利用に必要な帯域設計の考え方

クラウドサービスを快適に利用するうえで、最も基本的かつ重要な要素がネットワーク帯域です。オンプレミス環境では社内LANの帯域(通常1Gbps以上)が利用できましたが、クラウド環境ではインターネット回線の帯域が直接的にユーザー体験を左右します。

帯域不足が引き起こす業務への影響

帯域が不足すると、以下のような問題が発生します。Web会議の映像が途切れる、クラウドストレージへのファイルアップロードに時間がかかる、SaaS型の業務システムの応答が遅くなる、といった事象です。これらは単なる「少し遅い」という不便さに留まらず、業務効率の低下や顧客対応の遅延といった実害に直結します。

特に注意が必要なのは、複数のクラウドサービスを同時利用する場合です。例えば、Microsoft 365でメールやTeamsを使いながら、Salesforceで顧客情報を参照し、同時にZoomで会議を行う、といったシーンは今や日常的です。こうした状況では、各サービスが必要とする帯域が重なり合い、想定以上のトラフィックが発生します。

適切な帯域の算出方法

では、どの程度の帯域を確保すべきでしょうか。一般的な目安として、以下のような考え方があります。

利用シーン 推奨帯域(1ユーザーあたり) 備考
メール・Webブラウジング 1〜2Mbps 基本的な業務利用
Web会議(HD画質) 2〜4Mbps 上り・下り両方向で必要
クラウドストレージの常時同期 2〜5Mbps ファイルサイズにより変動
SaaS型業務システム 1〜3Mbps システムの種類により異なる

これらを踏まえると、1ユーザーあたり最低でも5〜10Mbpsの帯域を確保することが望ましいと言えます。ただし、これはあくまで平均的な利用を想定した数値です。実際には、同時利用率やピーク時のトラフィック集中を考慮し、余裕を持った帯域設計が不可欠です。

【編集部コメント】

帯域設計では、将来的な事業拡大や新サービス導入も見据えた計画が重要です。回線増強には時間とコストがかかるため、初期段階で3〜5年先を見据えた容量設計を行うことをお勧めします。

冗長化による可用性の確保

クラウドサービスが業務の中核を担うようになった今、ネットワークの可用性は企業の事業継続性に直結します。インターネット回線が停止すれば、メールも送れず、顧客情報も参照できず、会議も開けないという状況に陥ります。この「単一障害点(Single Point of Failure)」を排除するために必要なのが、ネットワークの冗長化です。

回線レベルの冗長化

最も基本的な冗長化は、複数のインターネット回線を用意することです。主回線と副回線を準備し、主回線に障害が発生した場合には自動的に副回線に切り替わる構成を取ります。この際、重要なのは「異なるキャリア・異なる物理経路」を選択することです。同じキャリアの回線を2本用意しても、共通の設備障害によって両方が同時に停止するリスクがあるためです。

具体的な構成例としては、以下のようなパターンが考えられます。

  • 主回線: 光回線(フレッツ光、auひかりなど)
  • 副回線: LTE/5G回線(モバイルルーター、SD-WANなど)

この組み合わせにより、物理的な回線切断にも通信キャリアの障害にも対応できる体制が整います。

拠点レベルの冗長化

さらに高度な可用性を求める場合は、拠点そのものを冗長化する方法があります。例えば、メインオフィスとは別の地域にバックアップオフィスやDR(災害復旧)サイトを設け、それぞれから独立してクラウドサービスにアクセスできる環境を構築します。これにより、地震や火災といった物理的な災害にも対応可能になります。

DNS・ゲートウェイの冗長化

意外と見落とされがちなのが、DNS(ドメインネームシステム)やゲートウェイの冗長化です。インターネット接続そのものは生きていても、DNSサーバーが応答しなければクラウドサービスにアクセスできません。プライマリDNSとセカンダリDNSを異なるプロバイダーで設定する、あるいはパブリックDNS(Google DNS、Cloudflare DNSなど)を併用するといった対策が有効です。

【編集部コメント】

冗長化は「コストとリスクのバランス」です。すべての企業が最高レベルの冗長化を必要とするわけではありません。自社の業務特性やRTO(目標復旧時間)・RPO(目標復旧時点)を明確にし、適切なレベルを選択することが重要です。

クラウド時代のセキュリティ要件

クラウド利用が進むことで、セキュリティの考え方も根本から見直す必要があります。従来は「社内ネットワークは安全、外部は危険」という境界型セキュリティが主流でしたが、クラウド時代には境界という概念自体が曖昧になります。

ゼロトラストネットワークの考え方

近年注目されているのが、ゼロトラストネットワークという考え方です。これは「何も信頼しない」という前提に立ち、すべてのアクセスに対して認証・認可・検証を行うアプローチです。社内からのアクセスであっても、社外からのアクセスであっても、同じレベルのセキュリティチェックを実施します。

ゼロトラストを実現するための主要な技術要素は以下の通りです。

  • 多要素認証(MFA): パスワードだけでなく、SMSやアプリによる追加認証を要求
  • ID・アクセス管理(IAM): ユーザーごとに必要最小限の権限のみを付与
  • エンドポイントセキュリティ: デバイスの状態を常時監視し、脅威を検出
  • ネットワークセグメンテーション: 業務領域ごとにネットワークを分離し、侵害の拡大を防止

クラウドアクセスセキュリティブローカー(CASB)

SaaSサービスを安全に利用するために重要なのが、CASB(Cloud Access Security Broker)です。CASBは、ユーザーとクラウドサービスの間に位置し、以下のような機能を提供します。

機能 概要
可視化 どのクラウドサービスが使われているかを把握
データ保護 機密情報の外部流出を防止(DLP機能)
脅威防御 マルウェアや不正アクセスを検出・ブロック
コンプライアンス 法規制や社内規定への準拠状況を監視

CASBを導入することで、シャドーIT(IT部門が把握していないクラウドサービスの利用)を可視化し、適切な管理下に置くことができます。

暗号化とVPNの活用

クラウドとの通信経路を保護するために、暗号化は必須です。現在のSaaSサービスの多くはHTTPS通信(TLS/SSL)に対応していますが、企業ネットワーク内部からインターネットへの出口、あるいはリモートワーク環境からの接続においては、追加の保護が必要な場合があります。

従来はVPN(Virtual Private Network)が主流でしたが、クラウド時代にはSD-WAN(Software-Defined WAN)SASE(Secure Access Service Edge)といった、より柔軟で高度なソリューションが登場しています。これらは、ネットワークとセキュリティを統合的に管理し、クラウドサービスへの最適な経路を動的に選択します。

【編集部コメント】

セキュリティは「導入して終わり」ではありません。定期的な脆弱性診断やログの監視・分析、インシデント対応訓練など、継続的な運用が不可欠です。SOC(Security Operation Center)の構築や外部セキュリティベンダーの活用も検討しましょう。

SaaS利用を前提とした通信設計のポイント

ここまで帯域・冗長化・セキュリティという3つの観点を見てきましたが、実際にSaaSを中心としたクラウド環境を構築する際には、これらを統合的に設計する必要があります。

インターネットブレイクアウトの検討

従来の企業ネットワークでは、すべての通信を本社のゲートウェイ経由で行う「集中型」の構成が一般的でした。しかし、クラウドサービスへのアクセスが増えると、本社のゲートウェイがボトルネックになるケースが多発します。

この問題を解決するのが、インターネットブレイクアウト(ローカルブレイクアウト)です。これは、各拠点から直接インターネットに接続し、クラウドサービスにアクセスする構成です。本社を経由しないため、遅延が少なく、帯域も効率的に利用できます。

ただし、ブレイクアウトを実施する際には、各拠点にファイアウォールやセキュリティ機能を配置する必要があり、セキュリティレベルの維持が課題となります。この点で、前述のSASEのようなクラウド型セキュリティサービスが有効です。

QoS(Quality of Service)の設定

複数のクラウドサービスを利用する環境では、通信の優先度制御が重要になります。例えば、Web会議は遅延に敏感ですが、ファイルバックアップは多少遅くても業務に支障がありません。QoSを設定することで、重要な通信に優先的に帯域を割り当て、快適な利用環境を維持できます。

トラフィック監視と分析

クラウド利用環境では、継続的なトラフィック監視が欠かせません。どのサービスがどれだけの帯域を消費しているか、異常なトラフィックが発生していないか、ピーク時間帯はいつか、といった情報を収集・分析することで、ネットワークの最適化やキャパシティプランニングが可能になります。

NetFlow、sFlow、IPFIXといったプロトコルを活用したトラフィック分析ツールや、クラウド型のネットワーク監視サービスを導入することで、リアルタイムでの状況把握と迅速な問題対応が実現します。

ベンダーとの協力体制

クラウドサービスのパフォーマンスや可用性は、自社のネットワークだけでなく、クラウドベンダー側のインフラにも依存します。そのため、主要なSaaSベンダーが推奨するネットワーク要件や接続方法を確認し、必要に応じて専用線接続(AWS Direct Connect、Azure ExpressRouteなど)を検討することも重要です。

また、ベンダーが提供するステータスページやサポート体制を活用し、障害発生時の情報収集ルートを事前に確立しておくことで、迅速なトラブルシューティングが可能になります。

【編集部コメント】

通信設計は一度完成しても、利用状況の変化に応じて継続的に見直す必要があります。四半期ごとのレビューを習慣化し、新しいサービスの導入や利用者数の増加に合わせて、柔軟にネットワーク構成を調整していきましょう。

まとめ:クラウド時代のネットワーク要件を整理する

クラウドサービスの普及により、企業ネットワークに求められる要件は大きく変化しました。本記事で解説した内容を改めて整理すると、以下のようになります。

帯域設計においては、ユーザー数と利用サービスを考慮し、余裕を持った容量を確保することが重要です。1ユーザーあたり5〜10Mbpsを基準とし、将来的な拡張も見据えた設計を行いましょう。

冗長化においては、回線・拠点・DNS/ゲートウェイといった複数のレイヤーで単一障害点を排除し、事業継続性を確保する体制を整えます。異なるキャリア・異なる経路を組み合わせることがポイントです。

セキュリティにおいては、従来の境界型防御からゼロトラストへの転換を進め、CASBやSASEといった最新技術を活用して、クラウド環境に適した保護策を講じます。認証・暗号化・監視の3要素を徹底することが基本です。

通信設計においては、インターネットブレイクアウトやQoS設定により、効率的で快適な接続環境を実現します。継続的なトラフィック監視と分析を通じて、常に最適な状態を維持する運用体制を構築しましょう。

これらの要件を満たすネットワーク環境を整備することで、DX推進の基盤となる安定したクラウド利用環境が実現します。クラウドサービスは今後もさらに進化し、企業の業務に深く浸透していくことが予想されます。その変化に柔軟に対応できるネットワーク基盤を今から構築することが、企業の競争力を維持・向上させる鍵となるでしょう。

IT担当者の皆様には、本記事で紹介した観点を参考に、自社のネットワーク環境を見直し、クラウド時代に適応した要件定義と設計を進めていただければと思います。必要に応じて、ネットワークベンダーやSIerといった専門家の知見も活用しながら、最適な環境構築を目指してください。

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