ネットワーク障害が企業活動に与える深刻な影響
現代の企業活動において、ネットワークインフラは電気や水道と同様の基幹インフラとなっています。業務システムのクラウド化、テレワークの普及、Web会議の日常化などにより、ネットワーク接続なしには業務が成立しない状況が一般化しました。
しかし、ネットワークは完璧ではありません。回線事業者の設備故障、自然災害による物理的な断線、サイバー攻撃、人的ミスによる設定エラーなど、様々な要因でネットワーク障害は発生します。総務省の調査によれば、通信事業者における重大事故は年間数十件発生しており、企業ネットワークにおいても大小様々な障害が日々発生しているのが実態です。
ネットワーク障害が発生した際の影響は多岐にわたります。まず基幹業務システムへのアクセスが不可能になり、受発注処理、在庫管理、会計処理などの業務が完全に停止します。クラウド型の業務システムを利用している場合、インターネット接続が断たれれば何もできない状態に陥ります。
また、社内外とのコミュニケーション手段も失われます。電子メールが送受信できず、Web会議システムも利用不可能となり、顧客対応や社内連絡に重大な支障をきたします。特にカスタマーサポート部門や営業部門では、顧客との連絡が取れないことで信頼損失につながるリスクがあります。
さらに深刻なのは、ネットワーク障害による機会損失と経済的損害です。ECサイトが停止すれば売上が直接失われ、製造業では生産ラインの制御システムが停止して生産活動そのものが止まる可能性があります。金融業界では取引が停止し、物流業界では配送管理システムが機能しなくなるなど、業種によって影響の深刻度は異なりますが、いずれも大きな損害につながります。
【編集部コメント】
ある調査では、企業におけるネットワーク障害の平均復旧時間は2〜4時間とされていますが、原因特定に時間がかかる場合は半日以上に及ぶこともあります。この間の損失は業種や企業規模によって異なりますが、中堅企業でも時間あたり数十万円から数百万円の損失が発生するケースが報告されています。
ネットワーク障害の主な原因と発生パターン
効果的なネットワーク障害対策を講じるためには、まず障害の発生原因を理解することが重要です。ネットワーク障害は大きく分けて以下のような原因で発生します。
通信事業者側の設備障害は、企業側では制御できない外部要因による障害です。光ファイバーケーブルの物理的な断線、交換機やルーターなどの通信機器の故障、データセンターの電源障害などが該当します。2023年には大手通信事業者で大規模な障害が発生し、全国の企業に影響を与えた事例もあります。工事中の誤切断や、経年劣化による設備故障なども定期的に発生しています。
自然災害による物理的損傷も重大なリスク要因です。地震、台風、洪水、落雷などにより、通信設備が物理的に破壊されたり、長時間の停電により通信機器が停止したりします。特に日本は自然災害が多い国であり、2011年の東日本大震災では広範囲で通信インフラが甚大な被害を受けました。近年頻発する集中豪雨や台風による被害も無視できません。
サイバー攻撃も現代的な脅威として増加しています。DDoS攻撃によりネットワーク帯域が飽和して正常な通信ができなくなる、ランサムウェアにより社内ネットワークが機能不全に陥るなど、悪意ある第三者による攻撃がネットワーク障害の原因となるケースが増えています。
人的ミスによる設定エラーも看過できない要因です。ネットワーク機器の設定変更時のミス、ケーブルの誤接続、アップデート作業の失敗など、人為的なミスによって障害が発生するケースは決して少なくありません。特に複雑化した企業ネットワークでは、一箇所の設定ミスが全体に波及するリスクがあります。
さらに機器の経年劣化や容量不足による障害もあります。ルーターやスイッチなどのネットワーク機器は通常5〜7年程度で更新が推奨されますが、予算の都合で使い続けることで突然の故障リスクが高まります。また、トラフィック量の増加により回線容量が不足し、速度低下や接続不安定が発生することもあります。
| 障害原因 | 具体例 | 企業側での制御 |
|---|---|---|
| 通信事業者側の設備障害 | 光ファイバー断線、交換機故障、電源障害 | 不可(バックアップ回線で対応) |
| 自然災害 | 地震、台風、落雷による物理損傷 | 不可(冗長化で対応) |
| サイバー攻撃 | DDoS攻撃、ランサムウェア感染 | 部分的に可能(セキュリティ対策) |
| 人的ミス | 設定エラー、誤操作、ケーブル誤接続 | 可能(運用体制の整備) |
| 機器の故障・劣化 | ルーター故障、スイッチ故障、容量不足 | 可能(定期更新・監視) |
【編集部コメント】
上記の表からわかるように、通信事業者側の障害や自然災害など、企業側で直接制御できない要因が多く存在します。だからこそ、障害発生を前提とした冗長化やバックアップ体制の構築が不可欠なのです。「障害は起きないもの」ではなく「障害は必ず起きるもの」という前提で対策を講じることが重要です。
BCP対策としての回線冗長化の重要性
BCP(Business Continuity Plan:事業継続計画)とは、災害や事故などの緊急事態が発生した際に、事業を継続または早期復旧するための計画です。ネットワークインフラはBCPの中核をなす要素であり、その可用性を高めることが事業継続性の確保に直結します。
回線冗長化とは、メイン回線に障害が発生した場合に備えて、バックアップ回線を用意しておく対策です。冗長化により、一つの回線が使えなくなっても別の回線で通信を継続でき、業務停止を回避または最小限に抑えることができます。
回線冗長化の基本的な考え方は「単一障害点(Single Point of Failure)を作らない」ことです。一つの回線、一つの経路、一つの通信事業者に依存していると、その部分に障害が発生した時点で全てが止まってしまいます。冗長化により複数の選択肢を持つことで、障害の影響を局所化し、サービス継続性を高めることができます。
回線冗長化には複数のアプローチがあります。最も基本的なのは複数回線の導入です。主回線と副回線を用意し、通常時は主回線を使用し、主回線に障害が発生したら自動的に副回線に切り替える構成です。この際、主回線と副回線は異なる通信事業者、異なる物理経路を選択することが重要です。同じ事業者、同じ経路では、障害時に両方とも影響を受ける可能性があるためです。
より高度な冗長化としてアクティブ・アクティブ構成があります。これは複数の回線を常時稼働させ、トラフィックを分散させる方式です。一つの回線に障害が発生しても、残りの回線で通信を継続できるだけでなく、通常時は複数回線の帯域を合算して利用できるため、パフォーマンス向上も期待できます。ただし、設定や管理が複雑になるため、専門的な知識が必要です。
マルチキャリア構成も重要な選択肢です。複数の通信事業者と契約することで、一つの事業者で大規模障害が発生しても、別の事業者の回線で業務を継続できます。2023年に発生した大手キャリアの障害では、マルチキャリア構成を採用していた企業は影響を最小限に抑えることができました。
冗長化を実現する具体的な回線の組み合わせとしては、以下のようなパターンがあります:
- 光回線 + 光回線(別事業者): 高速・安定した通信を維持しながら冗長性を確保
- 光回線 + モバイル回線(4G/5G): 物理的に異なる通信経路を確保でき、災害時にも有効
- 専用線 + インターネットVPN: セキュリティと冗長性の両立
- 複数の閉域網サービス: 高いセキュリティレベルを維持しながら冗長化
回線冗長化を検討する際は、コストと可用性のバランスを考慮する必要があります。完全な冗長化は理想的ですが、コストも倍増します。事業への影響度を評価し、重要度の高い拠点や業務から優先的に冗長化を進めるアプローチが現実的です。
【編集部コメント】
回線冗長化は「保険」のようなものです。障害が発生しない間はコストのように感じられますが、いざ障害が発生した際の損失と比較すれば、十分に投資対効果があります。特に業務のクラウド依存度が高い企業では、冗長化は必須の投資と考えるべきです。
効果的なバックアップ回線の選定と構築方法
バックアップ回線を導入する際は、メイン回線との差別化が重要なポイントとなります。メイン回線と同じ技術、同じ事業者、同じ物理経路では、障害時に同時に影響を受けるリスクがあるためです。
通信事業者の分散は最も基本的な対策です。メイン回線がA社の光回線であれば、バックアップ回線はB社の光回線またはモバイル回線を選択します。大手通信事業者でも全国規模の障害は発生するため、複数の事業者と契約することでリスクを分散できます。
通信技術の分散も有効です。メイン回線が固定回線(光ファイバー)であれば、バックアップ回線はモバイル回線(4G/5G)を選択することで、物理的に異なる通信経路を確保できます。モバイル回線は基地局を経由するため、地中のケーブルが断線しても通信が可能です。特に災害時には、固定回線よりもモバイル回線の方が復旧が早いケースもあります。
物理経路の分散も重要な視点です。同じ建物内に引き込まれる複数の回線が、実は地下の同じ配管を通っているケースがあります。この場合、工事での誤切断や災害による損傷で同時に障害が発生します。通信事業者に対して、物理経路が異なることを確認し、可能であれば別の引き込み口から導入することが望ましいです。
バックアップ回線の帯域設計も考慮が必要です。完全に同等の帯域を確保するのが理想ですが、コストの関係で「縮退運転」を前提とする場合もあります。縮退運転とは、バックアップ回線ではメイン回線よりも低速の回線を使用し、必要最低限の業務のみを継続する運用方式です。
例えば、メイン回線が1Gbpsの光回線であれば、バックアップ回線は100Mbpsのモバイル回線とし、障害時は基幹業務システムへのアクセスと重要なメール通信のみを優先するといった運用です。この場合、どの業務を優先するかの優先順位付けが事前に必要です。
自動切り替えと手動切り替えの選択も重要です。自動切り替え(フェイルオーバー)は、障害を検知すると自動的にバックアップ回線に切り替わる仕組みで、ダウンタイムを最小化できます。SD-WAN技術を活用すれば、数秒から数十秒での切り替えが可能です。一方、手動切り替えは管理者が状況を判断して切り替える方式で、意図しない切り替えを防げますが、復旧に時間がかかります。
実際の構築にあたっては、以下のような機器や技術が活用されます:
| 技術・機器 | 機能 | メリット |
|---|---|---|
| マルチホームルーター | 複数のWAN回線を収容し、障害時に自動切り替え | 導入が比較的容易でコストも抑えられる |
| SD-WAN | 複数回線の統合管理と動的な経路制御 | 高度な負荷分散と瞬時の切り替えが可能 |
| LTE/5Gルーター | モバイル回線をバックアップとして利用 | 固定回線と物理経路が完全に異なる |
| ロードバランサー | 複数回線への負荷分散と冗長化 | 帯域の有効活用と高可用性の両立 |
監視体制の構築も忘れてはなりません。バックアップ回線が正常に機能するかを定期的に確認し、障害発生時に確実に切り替わることを検証する必要があります。監視ツールを導入し、回線の状態を常時監視することで、障害の早期発見と迅速な対応が可能になります。
また、定期的な切り替え訓練も重要です。実際に障害が発生してから初めて切り替えを行うのではなく、定期的にメイン回線からバックアップ回線への切り替えテストを実施し、手順の確認と問題点の洗い出しを行います。年に1〜2回程度の訓練を計画的に実施することで、実際の障害時に慌てずに対応できます。
【編集部コメント】
バックアップ回線の選定では、コストだけでなく「どれだけ独立性があるか」が重要です。安価だからといって同じ事業者の別プランを選んでしまうと、事業者側の障害で両方とも停止するリスクがあります。多少コストがかかっても、真に独立した回線を選ぶことが、BCP対策としての価値を生み出します。
ネットワーク障害対策の実践と運用体制の整備
回線冗長化やバックアップ回線の導入だけでは、完全なネットワーク障害対策とは言えません。それらを効果的に機能させるための運用体制と手順の整備が不可欠です。
まず重要なのがネットワーク構成の文書化です。どの拠点にどの回線が引かれているか、どの機器がどのように接続されているか、障害時の切り替え手順はどうなっているかなど、ネットワークに関する情報を詳細に文書化しておきます。これにより、障害発生時に担当者が迅速に状況を把握し、適切な対応を取ることができます。
障害対応マニュアルの整備も必須です。障害の種類別に、誰が、何を、どの順番で対応するかを明確にしたマニュアルを作成します。特に以下の項目を含めることが重要です:
- 障害検知時の初動対応手順
- 障害原因の切り分け方法
- バックアップ回線への切り替え手順
- 通信事業者への連絡方法と窓口情報
- 社内への障害通知方法
- 復旧後の確認項目と報告手順
エスカレーションフローの明確化も重要です。担当者レベルで対応できない障害が発生した場合、どのタイミングで、誰に、どのように報告するかを定めておきます。特に夜間や休日に障害が発生した場合の連絡体制を整備し、緊急連絡網を作成しておくことが必要です。
監視システムの導入は、障害の早期発見に不可欠です。ネットワーク監視ツールを導入し、回線の死活監視、トラフィック監視、機器の稼働状況監視を行います。異常を検知した際には、自動的にアラートを発信し、担当者に通知する仕組みを構築します。
監視項目としては以下のようなものがあります:
- 回線の疎通確認: 定期的にPingを送信し、回線が生きているかを確認
- 帯域使用率: 回線の使用率を監視し、逼迫時に警告
- パケットロス率: パケット損失の発生を監視
- 遅延時間: 通信の遅延が閾値を超えた場合に警告
- 機器のCPU・メモリ使用率: ルーターやファイアウォールの負荷状況
- ログの異常検知: エラーログや警告ログの発生状況
ベンダーとのサポート契約も重要な要素です。通信事業者やネットワーク機器ベンダーと適切なサポート契約を結び、障害時に迅速なサポートを受けられる体制を整えます。24時間365日対応のサポート契約や、オンサイト保守契約などを検討し、復旧時間の短縮を図ります。
定期的な見直しと改善も忘れてはなりません。ネットワーク環境は常に変化します。業務システムの追加、拠点の増減、トラフィック量の変化などに応じて、ネットワーク構成や障害対策も見直す必要があります。少なくとも年に1回は、ネットワーク全体の棚卸しを行い、脆弱性がないかを確認します。
また、実際に発生した障害の振り返りも重要です。障害が発生した際は、その原因、対応の経緯、復旧までの時間、影響範囲などを詳細に記録し、分析します。そこから得られた教訓を基に、マニュアルの更新や設定の見直しを行い、同様の障害を防ぐための改善を継続的に実施します。
セキュリティ対策との統合も考慮すべき点です。ネットワーク障害対策とセキュリティ対策は別々に考えられがちですが、実際には密接に関連しています。例えば、バックアップ回線を導入する際は、そこからの不正アクセスを防ぐためのファイアウォール設定が必要です。また、DDoS攻撃によるネットワーク障害を防ぐためのセキュリティ対策も重要です。
| 対策項目 | 実施内容 | 実施頻度 |
|---|---|---|
| 構成文書の更新 | ネットワーク構成図、機器リスト、設定情報の最新化 | 変更時および四半期ごと |
| 切り替え訓練 | 計画的なバックアップ回線への切り替えテスト | 半年に1回 |
| 監視設定の見直し | 監視項目、閾値、アラート設定の適正化 | 四半期ごと |
| マニュアルの更新 | 障害対応手順の見直しと改訂 | 半年に1回および障害発生後 |
| 機器のファームウェア更新 | セキュリティパッチ適用と機能改善 | 四半期ごとまたは重大な脆弱性発見時 |
| 全体レビュー | ネットワーク全体の棚卸しと改善計画策定 | 年1回 |
最後に、経営層への報告と理解の獲得も重要です。ネットワーク障害対策には相応の投資が必要ですが、その重要性を経営層に理解してもらわなければ予算が確保できません。障害発生時の損失額を具体的に試算し、対策の投資対効果を示すことで、経営判断を得やすくなります。定期的に対策状況や障害発生状況を報告し、継続的な投資の必要性を訴求することが大切です。
【編集部コメント】
ネットワーク障害対策は「導入して終わり」ではありません。継続的な運用、訓練、見直しがあって初めて実効性のある対策となります。特に担当者の異動や組織変更があった際は、必ず引き継ぎを徹底し、障害対応の知識とスキルが途切れないようにすることが重要です。
まとめ:ネットワーク障害対策は企業の生命線
本記事では、ネットワーク障害が企業活動に与える影響と、BCP対策としての回線冗長化やバックアップ回線の重要性について詳しく解説してきました。
現代の企業活動において、ネットワークは単なるITインフラではなく、事業そのものを支える生命線となっています。クラウドサービスの普及、テレワークの定着、デジタルトランスフォーメーションの推進により、ネットワークへの依存度は今後さらに高まることが予想されます。
一方で、ネットワーク障害は完全に防ぐことはできません。通信事業者の設備障害、自然災害、サイバー攻撃、人的ミスなど、様々な要因で障害は発生します。重要なのは、障害の発生を前提として、それでも事業を継続できる体制を整えることです。
その中核となるのが回線冗長化です。複数の回線を用意し、異なる通信事業者、異なる技術、異なる物理経路を組み合わせることで、一つの回線に障害が発生しても業務を継続できる環境を構築します。導入コストはかかりますが、障害による損失と比較すれば、十分に正当化できる投資です。
また、技術的な対策だけでなく、運用体制の整備も同様に重要です。障害対応マニュアルの作成、監視体制の構築、定期的な訓練の実施、継続的な見直しと改善など、組織的な取り組みがあって初めて、ネットワーク障害対策は実効性を持ちます。
ネットワーク障害対策は、企業規模や業種によって最適な方法が異なります。小規模企業であれば、最小限の冗長化から始めることもできますし、大企業や金融機関などでは、より高度で多層的な対策が必要です。重要なのは、自社の事業特性とリスク許容度を正確に評価し、それに見合った対策を講じることです。
さらに、一度構築した対策を維持し続けることも大切です。ネットワーク環境は常に変化しており、新しい脅威も次々と現れます。定期的なレビューと改善を繰り返し、常に最新の状態を保つことが、真のBCP対策となります。
最後に、ネットワーク障害対策は、IT部門だけの課題ではありません。経営層の理解と支援、各部門の協力、適切な予算配分など、組織全体で取り組むべき経営課題として位置づけることが重要です。デジタル時代の事業継続性を確保するために、今こそネットワーク障害対策を見直し、強化する時です。






