ビジネスフォンは、初期費用や拡張性に優れたクラウドPBXが主流です。従来のオンプレミス型との違いを理解し、通話品質、ランニングコスト、BCP対策、スマホ内線化などの機能面を総合的に評価することが重要です。最適なシステム選定が、企業の生産性と将来の働き方を決定します。
ビジネスフォン選定が企業の生産性を左右する
企業におけるビジネスフォンは、顧客や取引先との重要な接点であり、従業員間の円滑なコミュニケーションを支える「声のインフラ」です。単なる電話機ではなく、内線・外線の切り替え、保留、転送、代表番号着信といった企業活動に不可欠な機能を統合的に提供しています。
しかし、「ビジネスフォン」と一口に言っても、従来のアナログ電話から、IP電話、そしてクラウドPBXを活用した最新のスマートフォン内線化まで、その種類や導入形態は多岐にわたります。自社のニーズに合わない機種やシステムを選んでしまうと、高額な初期費用が無駄になるだけでなく、業務効率の低下や将来的な拡張性の制約といった深刻な問題につながりかねません。
本コラムでは、企業の規模や業種に関わらず、失敗せずに最適なビジネスフォンシステムを選定するための専門的な視点と具体的なステップを解説します。情報システム担当者様や総務部門のご担当者様は、このコラムを選定の羅針盤として、貴社にとって最適な「声のインフラ」構築にお役立てください。
ビジネスフォンシステムの主要な種類と仕組みの理解
ビジネスフォンを選ぶ第一歩は、現在主流となっている「PBX(電話交換機)」の導入形態の違いを理解することです。この形態によって、初期費用、ランニングコスト、機能、拡張性が決定的に異なります。
(1) 従来のPBX(オンプレミス型)の構造と特徴
従来のビジネスフォンシステムは、オフィス内に主装置(PBX)と呼ばれる電話交換機を物理的に設置し、この主装置と各電話機を専用の配線で繋ぐオンプレミス(自社設置)型が主流でした。
- 特徴:
- 安定性: 自社ネットワーク内で完結するため、インターネットの状況に左右されにくく、安定性が高いとされてきました。
- カスタマイズ性: 大規模なオフィスや特殊な配線が必要な場合など、企業固有のニーズに合わせたカスタマイズが可能です。
- コスト: 初期費用が高額になりがちです。また、主装置の法定耐用年数(一般的に6年)が過ぎると、高額な交換費用が発生します。
- 設置場所: オフィスに固定されるため、リモートワークや多拠点展開には不向きです。
(2) IP-PBX(オンプレミス型/サーバー設置型)
IP-PBXは、従来の物理的なPBXではなく、サーバーにPBXのソフトウェアをインストールして機能させるシステムです。電話回線としてアナログ回線ではなく、インターネット回線(IP網)を利用します。
- 特徴:
- 配線: LANケーブルを通じて通話を行うため、配線の自由度が高まります。
- 内線無料化: インターネット網を利用するため、拠点間の内線通話が無料になります(VPNなどでの接続が必要)。
- 拡張性: ソフトウェアベースのため、従来のPBXよりも拡張が柔軟になりやすいです。
- 運用: サーバーの保守・管理が必要であり、専門的な知識が引き続き求められます。
(3) クラウドPBX(クラウド型)の革新性
近年急速に普及しているのがクラウドPBXです。これは、PBX機能をサービス提供事業者のデータセンターに設置し、インターネット経由で利用するシステムです。企業側はPBX主装置の設置が一切不要です。
- 特徴:
- 初期費用: PBX機器の購入が不要なため、初期費用が大幅に抑えられます。
- 場所の自由: スマートフォンやPCを内線化できるため、オフィス外(自宅、外出先)でも会社番号で発着信が可能となり、リモートワークに最適です。
- 運用: メンテナンスやバージョンアップはベンダー側が行うため、企業の運用負担が激減します。
- 拡張性: ユーザー数の増減にWeb上の設定で即座に対応でき、柔軟性が極めて高いです。
ビジネスフォンを選ぶ際の具体的な5つの重要ポイント
自社に最適なビジネスフォンシステムを選ぶためには、「導入形態(オンプレミスかクラウドか)」を決定した上で、以下の具体的な機能や条件を比較検討することが重要です。
(1) 通話品質と安定性(SLAの有無)
ビジネスフォンは、企業の「顔」となるため、通話品質は妥協できません。IP電話技術は進化していますが、インターネット回線の品質が通話に直結します。
- クラウドPBXの場合: ベンダーが提供するSLA(サービス品質保証)の内容を確認し、稼働率や障害発生時の対応(復旧時間など)が明確に保証されているかを確認してください。
- 回線: 通話の安定性を確保するため、光回線(法人向け)の導入は必須です。可能であれば、音声品質を優先制御するQoS(Quality of Service)機能を持つルーターやネットワークの構築も検討してください。
(2) ランニングコストとトータルコスト
初期費用だけでなく、「月々のランニングコスト」と「5年間のトータルコスト」を比較することが重要です。
- 月額費用: 基本料金、内線利用料、外線通話料、オプション料金(通話録音、CTIなど)の合算で比較します。クラウドPBXは、オンプレミスより月額料金が高くなる傾向がありますが、内線通話が無料になるため、トータルで安価になるケースも多いです。
- 工事・設置費用: 従来のビジネスフォンは設置工事費が大きな比重を占めます。クラウドPBXでは、この費用が大幅に抑えられます。
(3) 拡張性と将来性(従業員数の増減)
企業の成長に合わせて、内線番号を増やしたり、拠点を追加したりする必要が出てきます。
- クラウドPBX: ユーザー単位で契約数を増減できるため、拡張性・縮小性に優れています。
- オンプレミス: 物理的な主装置の最大収容数に制約があるため、大規模な増設時には主装置自体の交換が必要になり、コストと手間がかかります。将来的な従業員数の見込みを立て、余裕を持った拡張性があるか確認が必要です。
(4) 必要な機能と外部システム連携(CTI/CRM)
企業の業務形態に合わせた付加機能の有無を確認します。
- 必須機能: 保留、転送、発信者番号表示(ナンバーディスプレイ)、留守番電話、着信拒否などの基本機能は当然として、代表番号着信のグループ設定(一斉、順次など)の柔軟性も重要です。
- コールセンター機能: 自動音声応答(IVR)、通話録音、キューイング(待ち呼)などの機能が必要か。
- 連携: CRM(顧客管理)システムやSFA(営業支援)システムと連携し、顧客情報と着信情報を紐づけるCTI(Computer Telephony Integration)機能は、業務効率を劇的に改善するため、対応しているかを確認します。
(5) サポート体制とBCP対策
電話システムに障害が発生した場合、ビジネスは停止してしまいます。
- サポート: 24時間365日のサポート体制があるか、リモートでのトラブルシューティングが可能か、オンサイト保守(現地駆けつけ対応)の費用とスピードはどうかを確認します。
- BCP(事業継続計画): 災害や停電時にも電話機能が維持できるか。クラウドPBXは、物理的なオフィスに依存しないため、BCP対策として非常に優れています。
導入形態別:最適な企業の選び方ガイド
前述のビジネスフォンシステムの種類とメリット・デメリットを踏まえ、貴社の状況に応じた最適な導入形態の選び方をご紹介します。
(1) クラウドPBXが最適な企業
- リモートワークを導入/推進している企業
- 初期投資を抑えたいスタートアップや中小企業
- 拠点が複数あり、内線通話を無料化したい企業
- 事業の成長が早く、柔軟に内線を増減させたい企業
- 情報システム担当者のリソースが限られている企業
→ 結論:現代の多くの企業にとって、クラウドPBXは、柔軟性、コスト、BCPの観点から最も有力な選択肢です。
(2) IP-PBXが最適な企業
- 既に社内に高性能なサーバーやLAN環境が整備されている企業
- クラウドサービスの利用に厳しいセキュリティ要件がある企業(ただし専用線のクラウドサービスも存在)
- 大規模で、自社サーバーでPBX機能を制御したい企業
(3) 従来のPBX(オンプレミス)が最適な企業
- 特殊な回線や独自の機器との連携が必須で、クラウドやIP化が困難な企業(非常に限定的)
- インターネット接続に依存しない、極めて高い安定性を最優先する企業(金融機関の一部など)
→ 注意点: 従来のPBXは、老朽化による故障リスクや高額な更新費用、そして柔軟性の欠如という点で、新規導入の選択肢としては推奨されません。
まとめ:ビジネスフォン選定は「未来の働き方」を選ぶこと
本コラムでは、ビジネスフォンシステムの主要な種類と、導入において比較検討すべき「品質・安定性」「コスト」「拡張性」「機能」「サポート」という5つの重要ポイントを詳細に解説しました。特に、クラウドPBXが、コスト効率と柔軟な働き方を両立させる現代の標準的な選択肢であることがご理解いただけたかと思います。
ビジネスフォン選定は、単に電話機を選ぶことではなく、「会社の未来のコミュニケーションと働き方」を選ぶことです。
編集部のコメント
ビジネスフォンの選定においては、「現在のコスト」よりも「将来の拡張性と働き方への対応力」を重視してください。クラウドPBXは、リモートワークやDX推進を支える通信インフラの核となり、企業の成長に合わせて柔軟に形を変えられます。
検討を始める際は、まず「自社の抱える電話業務上の課題(例:外出先で電話に出られない、内線が使えないなど)」を明確にし、その課題を解決できるサービスを提供している実績豊富なベンダーを選定することが成功への近道です。このコラムが、貴社の最適な通信環境構築に役立つことを願っております。


