法人向け光回線選びで押さえるべき基本知識
企業のIT基盤において、光回線は業務効率や生産性を左右する重要な要素です。近年、テレワークの普及やクラウドサービスの利用拡大により、法人向け光回線の選定は以前にも増して重要性を増しています。
法人向け光回線を検討する際、多くのIT担当者が直面するのが「どの回線を選べば良いのか」という課題です。個人向けの光回線とは異なり、法人向けには通信品質の保証、セキュリティ対策、サポート体制など、ビジネスに特化した要件が求められます。
現在、法人向け光回線市場には主に3つのタイプが存在します。NTT東西が提供する「フレッツ光」、KDDIやNUROなどが展開する「独自回線」、そして企業間通信に特化した「閉域網回線」です。これらはそれぞれ異なる特性を持ち、企業の用途や規模によって最適な選択肢が変わってきます。
編集部コメント: 回線選びは一度決めると変更が難しいため、導入前の比較検討が極めて重要です。自社の業務内容や将来的な拡張性も視野に入れて検討しましょう。
フレッツ光 ― 法人向けサービスの特徴と活用シーン
フレッツ光は、NTT東日本・西日本が提供する光ファイバー回線サービスで、法人向けには「フレッツ光ネクスト ビジネスタイプ」などのプランが用意されています。最大の特徴は、全国をカバーする広範なエリア対応と、長年の実績に基づく安定したサービス提供です。
法人向けフレッツ光の主な特徴として、以下の点が挙げられます。まず、固定IPアドレスの提供が可能であり、自社サーバーの運用やリモートアクセス環境の構築に適しています。また、帯域確保型サービスを選択することで、通信品質を一定水準に保つことができます。
通信速度については、1Gbpsの標準プランに加えて、10Gbpsの高速プランも選択可能です。さらに、法人契約では24時間365日のサポート体制が整っており、万が一のトラブル時にも迅速な対応が期待できます。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 提供エリア | 全国(NTT東西エリア) |
| 通信速度 | 最大1Gbps / 10Gbps |
| 固定IP | 提供可能(オプション) |
| サポート | 24時間365日対応 |
| 適した企業 | 全国展開する企業、安定性重視の企業 |
フレッツ光が特に適しているのは、全国に拠点を持つ企業や、通信品質の安定性を重視する企業です。また、光コラボレーション事業者を通じて契約することで、より柔軟なプラン設計やコスト削減も可能になります。
一方で、フレッツ光はベストエフォート型のサービスが基本となるため、利用者が多い時間帯には速度が低下する可能性があります。この点を補うために、帯域確保型のオプションサービスや、後述する閉域網サービスとの組み合わせを検討する企業も増えています。
独自回線 ― KDDI・NUROなどの特性と競争力
独自回線とは、NTT以外の通信事業者が自社で敷設・運用する光ファイバー網のことを指します。代表的なサービスとしては、KDDIの「auひかり」や、ソニーネットワークコミュニケーションズの「NURO Biz」などがあります。
独自回線の最大の利点は、NTTフレッツ光とは異なる通信網を使用することで、混雑の影響を受けにくく、安定した高速通信が期待できる点です。特に都市部において、フレッツ光が混雑している地域では、独自回線の方が実効速度が高いケースも少なくありません。
KDDI系の法人向けサービスは、モバイル回線との統合プランや、専用線サービスとの組み合わせなど、総合的な通信ソリューションを提供しています。複数の拠点をVPNで接続したい企業や、音声・データを統合管理したい企業にとって、ワンストップでのサービス導入が可能になります。
NURO Bizは、下り最大2Gbpsという高速通信を売りにしており、大容量データのやり取りが頻繁な企業や、クラウドサービスを多用する企業に適しています。また、10Gbpsプランや専有型のサービスも提供されており、より高度な通信環境を求める企業のニーズにも対応しています。
編集部コメント: 独自回線は提供エリアが限定されている場合があります。特に地方拠点での利用を検討する際は、事前にエリア確認を必ず行いましょう。
ただし、独自回線にも課題があります。最も大きいのは提供エリアの制約です。フレッツ光が全国をカバーしているのに対し、独自回線は都市部や主要地域に限定されることが多く、地方の営業所や工場では利用できない可能性があります。
また、回線事業者を変更する際の工事費用や切り替え期間も考慮する必要があります。特に既存のフレッツ光から独自回線への移行は、新規工事扱いとなるケースが多く、一時的な通信断を避けるための並行運用期間なども計画に含める必要があります。
閉域網回線 ― セキュアな企業間通信の実現
閉域網回線は、インターネットとは物理的または論理的に分離されたネットワークで、企業間や拠点間の通信を安全に行うための専用回線サービスです。代表的なサービスとして、NTTの「フレッツ・VPN」「広域イーサネット」、KDDIの「KDDI Wide Area Virtual Switch」などがあります。
閉域網の最大の特徴は、高度なセキュリティです。インターネットを経由しないため、外部からの不正アクセスリスクが大幅に低減されます。金融機関、医療機関、官公庁など、機密情報を扱う組織では、閉域網の利用が標準となっているケースも多くあります。
閉域網回線の主な種類と特徴を整理すると、以下のようになります。
| サービス種類 | 特徴 | 適した用途 |
|---|---|---|
| IP-VPN | 通信事業者の閉域IP網を利用、コスト効率が良い | 複数拠点間の通信、中小企業 |
| 広域イーサネット | レイヤー2レベルでの接続、高速・大容量 | データセンター接続、大容量通信 |
| 専用線 | 物理的に専有、最高レベルの品質保証 | 基幹システム、ミッションクリティカルな通信 |
| インターネットVPN | インターネット上に暗号化トンネルを構築 | コスト重視、テレワーク環境 |
IP-VPNは、通信事業者が提供する閉域IP網上に仮想的な専用ネットワークを構築するサービスです。物理的な専用線と比較してコストを抑えつつ、セキュアな通信環境を実現できます。複数拠点を持つ企業で、本社と各支店を安全に接続したい場合に適しています。
広域イーサネットは、レイヤー2レベルでの接続を提供し、拠点間をあたかも同一LAN内にあるかのように接続できます。データセンターとオフィスの接続や、高速・大容量のデータ転送が必要な企業に選ばれています。帯域保証型のサービスが一般的で、通信品質が安定している点も特徴です。
専用線は、物理的な回線を占有するサービスで、最も高い品質とセキュリティを提供します。ただし、コストは最も高額になります。金融機関の基幹システムや、24時間365日の安定稼働が求められるシステムなど、ミッションクリティカルな用途で採用されます。
編集部コメント: 閉域網は高セキュリティですが、コストも高額です。全ての通信を閉域網化するのではなく、機密性の高い通信のみを閉域網にし、一般的な通信はインターネット回線を使うハイブリッド構成も検討価値があります。
閉域網回線を選ぶ際の注意点として、初期導入コストと月額費用の両面でインターネット回線より高額になる点があります。また、構成変更や拠点追加時にも追加費用が発生するため、中長期的なネットワーク計画と予算確保が重要です。
用途別・企業規模別の最適な光回線選定ガイド
ここまで各種光回線の特徴を解説してきましたが、実際の選定においては、企業の用途、規模、予算、セキュリティ要件などを総合的に判断する必要があります。以下、代表的なケース別に最適な回線選定の考え方を整理します。
小規模企業・スタートアップの場合
従業員数が10名〜30名程度の小規模企業では、コストパフォーマンスと導入のしやすさが重要な判断基準となります。この規模では、フレッツ光の光コラボレーションサービスや、提供エリア内であれば独自回線のビジネスプランが適しています。
クラウドサービスの利用が中心で、自社サーバーを持たない場合は、固定IPアドレスが不要なプランを選ぶことでコストを削減できます。一方、リモートアクセスが必要な場合は、固定IPオプションを追加するか、VPNサービスを別途契約する方法があります。
中規模企業・複数拠点展開の場合
従業員数が50名〜300名程度で、複数拠点を展開している企業では、拠点間通信の安全性と管理の一元化が重要になります。この場合、IP-VPNサービスの導入を検討すべきです。
本社には広域イーサネットや高速フレッツ光を導入し、各支店はIP-VPNで接続する構成が一般的です。これにより、本社のサーバーやシステムに各拠点から安全にアクセスできる環境が整います。また、電話システムをIP化することで、拠点間通話を内線化し、通信コストの削減も可能になります。
大企業・高セキュリティ要件の場合
従業員数が500名以上の大企業や、金融・医療などの高セキュリティ要件がある業界では、専用線や広域イーサネットをベースとした閉域網構成が推奨されます。
基幹システムやデータセンター接続には帯域保証型の広域イーサネットを使用し、一般的なインターネット接続は別回線で行うデュアル回線構成が一般的です。また、災害対策やBCP(事業継続計画)の観点から、主回線と異なる経路のバックアップ回線を用意することも重要です。
業種別の推奨構成
業種によっても最適な回線構成は異なります。
製造業: 工場と本社を広域イーサネットで接続し、生産管理システムやCADデータを高速転送できる環境を構築。IoTセンサーからのデータ収集にも対応できる帯域を確保。
小売・飲食業: 本部と各店舗をIP-VPNで接続し、POSデータのリアルタイム集計やセキュアな決済処理を実現。店舗数が多い場合は、コスト効率の良いIP-VPNが適しています。
IT・クリエイティブ業: 大容量ファイルのやり取りが頻繁なため、10Gbpsクラスの高速回線を選択。NURO Bizなどの独自回線や、フレッツ光の10Gbpsプランが候補となります。
士業・コンサルティング: 顧客情報など機密性の高いデータを扱うため、セキュリティを重視した回線選定が必要。IP-VPNでの拠点接続に加え、エンドツーエンドの暗号化を実施。
| 企業規模 | 推奨回線タイプ | 重視ポイント |
|---|---|---|
| 小規模(〜30名) | フレッツ光 / 光コラボ / 独自回線 | コスト、導入スピード |
| 中規模(50〜300名) | フレッツ光 + IP-VPN | 拠点間接続、管理性 |
| 大規模(500名〜) | 広域イーサネット / 専用線 | 品質保証、セキュリティ |
編集部コメント: 回線選定は「現状」だけでなく「3年後、5年後の事業計画」も視野に入れることが重要です。拠点拡大や従業員増加を見越した拡張性のある構成を選びましょう。
法人光回線導入時のチェックポイントと契約の注意点
最適な回線タイプを選定した後、実際の導入に向けて確認すべきポイントを整理します。契約後のトラブルを避けるため、以下の項目を事前にチェックしましょう。
提供エリアと開通までの期間
まず確認すべきは、利用予定地が提供エリア内かという点です。特に独自回線や閉域網サービスは、提供エリアが限定される場合があります。本社がエリア内でも、支店や営業所が対象外というケースもあるため、全拠点での利用可否を確認する必要があります。
また、開通までの期間も重要です。フレッツ光の場合、通常2週間〜1ヶ月程度ですが、建物の状況によっては工事が必要で、2〜3ヶ月かかるケースもあります。閉域網サービスはさらに時間がかかることが多く、3ヶ月以上を見込むべきです。
帯域保証とベストエフォートの違い
ベストエフォート型は「最大速度まで努力するが保証はしない」というサービス形態で、コストが抑えられる一方、混雑時には速度が低下します。一般的なフレッツ光や独自回線の標準プランは、このタイプです。
帯域保証型は、一定の通信速度を保証するサービスで、主に閉域網サービスで提供されます。コストは高くなりますが、業務システムの安定稼働が求められる場合は、こちらを選択すべきです。
SLA(サービス品質保証)の内容
法人向けサービスでは、SLA(Service Level Agreement)が設定されていることが多くあります。これは、サービスの稼働率や障害復旧時間などを定量的に保証するものです。
例えば「稼働率99.9%を保証し、これを下回った場合は月額料金の一部を返金する」といった内容です。ミッションクリティカルなシステムを運用する場合は、SLAの内容を詳細に確認し、自社の要件を満たすかを判断しましょう。
サポート体制と障害対応
法人向けサービスでは、サポート体制が個人向けとは大きく異なります。24時間365日の電話サポート、専任担当者の配置、オンサイト保守などのオプションが用意されています。
特に重要なのは障害発生時の対応スピードです。通常は「障害連絡から4時間以内に駆けつけ」といった基準が設定されています。夜間・休日の対応可否も確認しておきましょう。
契約期間と解約条件
法人向け光回線は、通常2年〜3年の契約期間が設定されています。契約期間内の解約には違約金が発生するため、事前に確認が必要です。特に閉域網サービスは、初期投資が大きいため、違約金も高額になる傾向があります。
また、移転時の扱いも確認しておくべきです。オフィス移転が発生した場合、移転先で同じサービスが継続できるか、継続できない場合の違約金はどうなるか、などを契約前に明確にしましょう。
セキュリティオプションの必要性
光回線の基本サービスに加えて、セキュリティオプションの検討も重要です。UTM(統合脅威管理)、ファイアウォール、VPN装置のレンタルなど、各種オプションが用意されています。
自社でセキュリティ機器を購入・管理する方法もありますが、中小企業ではメンテナンスの手間を考えると、通信事業者が提供するマネージドサービスを利用する方が効率的な場合もあります。
コスト試算のポイント
回線コストを試算する際は、初期費用と月額費用の両方を考慮します。初期費用には、契約事務手数料、回線工事費、機器購入費などが含まれます。
月額費用は、回線使用料、プロバイダ料金、機器レンタル料、オプション料金などで構成されます。特に閉域網サービスは、拠点数や帯域幅によって料金が大きく変動するため、正確な見積もりを取得することが重要です。
また、将来的なコスト変動も考慮しましょう。拠点を増やす場合の追加コスト、帯域を増強する場合の追加費用なども試算に含めることで、より正確な投資判断が可能になります。
編集部コメント: 複数の事業者から相見積もりを取り、単純な価格比較だけでなく、サポート内容、SLA、実績なども総合的に評価しましょう。最安値が必ずしも最適解とは限りません。
まとめ ― 自社に最適な法人光回線を選ぶために
法人向け光回線の選定は、企業のIT戦略において重要な意思決定のひとつです。本記事で解説したように、フレッツ光、独自回線、閉域網という3つの主要な選択肢があり、それぞれに特徴とメリットがあります。
選定においては、以下のステップで検討を進めることをお勧めします。
ステップ1: 自社の通信環境における課題と要件を明確化する。現在の通信速度で十分か、セキュリティに問題はないか、将来的な拠点拡大計画はあるか、などを整理します。
ステップ2: 予算の上限を設定する。初期投資と月額コストのバランスを考慮し、現実的な予算枠を決定します。
ステップ3: 自社の規模や業種に適した回線タイプを選定する。本記事の比較表や用途別ガイドを参考に、候補を2〜3つに絞り込みます。
ステップ4: 複数の事業者から見積もりを取得し、詳細な比較を行う。価格だけでなく、SLA、サポート体制、実績なども評価項目に含めます。
ステップ5: 契約条件や解約条項を確認し、不明点があれば事業者に質問する。特に契約期間の縛りや、移転時の扱いは重要です。
また、ハイブリッド構成という選択肢も検討価値があります。例えば、基幹システムには閉域網を使い、一般的なインターネット接続には通常の光回線を使うという構成です。これにより、セキュリティとコストのバランスを最適化できます。
テクノロジーは日々進化しており、5Gやローカル5G、SD-WANなど、新しい選択肢も登場しています。今回選定した回線が永続的な解決策とは限らないため、定期的な見直しも重要です。年に1回程度、自社の通信環境を評価し、より良い選択肢がないか検討することをお勧めします。
法人向け光回線の選定は複雑で、専門知識も必要とされます。社内だけで判断が難しい場合は、ITコンサルタントやシステムインテグレーターに相談することも有効です。自社のビジネスを深く理解した上で、最適な通信環境を構築することが、デジタル時代における競争力の源泉となります。
本記事が、皆様の法人光回線選定の一助となれば幸いです。






